
――それでも私は、もう確かめに行かない
最近、富裕層向けクレジットカード市場が拡大しているという記事を読んだ。
Visa Infinite、Luxury Card、JAL Luxury Card。
年会費は5万円、10万円、時には50万円を超え、「特別体験」「限定イベント」「ウェルスマネジメント」といった言葉が並ぶ。
なるほど、理屈はよく分かる。
株高、相続、世代交代。
金融資産を持つ層が増え、カード会社がその受け皿を用意するのは自然な流れだ。
ただ、読み終えたあと、私は少し距離を感じていた。
市場は盛り上がっている。でも私は静かだ
この記事に書かれている内容は、どれも正しい。
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富裕層は増えている
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「価格より価値」で選ぶ人が増えている
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普通では買えない体験が求められている
そして、その体験はSNSで共有され、次の顧客を呼び込む。
構造としては、とてもよくできている。
それでも私は、その輪の中に戻りたいとは思わなかった。
「特別体験」は、本当に特別なのか
富裕層カードが用意する特別体験は、確かに魅力的に見える。
人数限定、抽選制、カード会員だけのイベント。
だが、ふと思う。
年間50回以上開催される特別体験は、本当に特別なのだろうか。
特別体験が制度化され、体験すること自体が「語るための素材」になった瞬間、それはもう日常の延長線上にある。
特別であることを、わざわざ確認しに行く行為。
その時点で、少し疲れてしまう。

(引用:https://www.jal.co.jp/jp/ja/jmb/jal-luxury-card/)
私は、カードで人の態度が変わる場面を見てきた
以前、昼間の静かなホテルBarで、カードを出した瞬間に空気が変わったことがあった。
それまで冷淡だったバーテンダーの態度が、カードを見た途端に柔らぐ。
あの瞬間、カードの「威力」を感じたのではない。
店の価値観が、露わになっただけだ。
だから私は、その店に二度と行かなかった。
カードの力を確かめる行為自体が、もう自分には必要なくなったのだと思う。

富裕層カードが試しているのは、資産ではない
富裕層カードが本当に試しているのは、会員の資産額ではない。
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自分は選ばれているか
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特別扱いされているか
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「価値を分かっている側」に立っているか
そうした感情の部分だ。
だが、ある段階を越えると、その問い自体が、どうでもよくなる。
確認しなくても、分かっていることは、分かっている。
市場が拡大しても、居場所は増えない
富裕層向けカード市場は、これからも拡大するだろう。
選択肢は増え、サービスは洗練され、さらに細分化されたカードが登場する。
だが、居心地のいい場所が増えるかというと、話は別だ。
それはカードが連れてきてくれる、また連れて行ってくれるものではない。
後記
もちろん私は今も、クレジットカードを使っている。
だが、カードで試すことは、もうしない。
カードは支払いのための道具であり、人や場所を評価するための装置ではない。
富裕層向けカード市場がどれだけ広がっても、私が大切にしたいのは、カードを出す前から心地よい場所だけだ。
それが分かってしまった以上、もう十分だと思っている。

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